鶴田沼は、栃木県宇都宮市鶴田町に広がる静かな自然環境を持つため池で、地域の人々からは愛称として「ひょうたん池」と呼ばれ親しまれています。池の周辺には、都市化の進む宇都宮の中で貴重となった里山の風景がそのまま残されており、住民主体の環境保護活動によって大切に守られています。
もともと農業用のため池として利用されてきた鶴田沼ですが、役割を終えた現在は、市民団体「グリーントラストうつのみや」によって保全が進められ、自然観察や散策が楽しめる豊かな緑地として多くの人に愛されています。
鶴田沼は宇都宮市中心部から西へ約5km、羽黒山の南に位置しています。羽黒山南側には広い湿地帯が広がり、その最南端に鶴田沼があります。沼を囲むように湿地・樹林地・草地が連なり、これらを含めて「鶴田沼緑地」と呼ばれています。
緑地は鶴田町と砥上町にまたがり、総面積は約30.9haと非常に広大で、東京ドーム約6.5個分に相当します。このうち約6haが市民団体の管理下で積極的に保護されており、環境保全のためのさまざまな活動が行われています。
鶴田沼緑地は、静かな自然環境を求める市民にとっての憩いの場であると同時に、近隣の小学校が環境教育のフィールドとして利用する重要な学びの場でもあります。都市部にありながら、四季折々の自然の変化を肌で感じられる貴重なスポットです。
鶴田沼は東西70m × 南北200mの大きさで、貯水量は約20,000㎥。中央がくびれた形状に見えるのは、1946年に造成された中土手によるもので、この形が「ひょうたん池」の愛称の由来となっています。
池は中土手を境に北側が「上沼」と呼ばれ、かつてはさらに300mほど北へ湿地が広がっていたため、当時は現在の約2倍もの規模があったとされています。
鶴田沼の水源は羽黒山に由来する地下水と雨水です。しかし羽黒台団地の造成によって流入量が減り、一時は水質悪化や乾燥化が問題となりました。現在は保全活動の効果により、かつての豊かな湿地環境が徐々に取り戻されています。
鶴田沼の周囲には湿原・雑木林・栗林が広がり、都市部とは思えない豊かな自然が残っています。朝露にけぶる幻想的な沼面にはマガモやアオサギが羽を休め、鮮やかな群青色のカワセミが素早く水中へ飛び込む姿を見ることもできます。
湿原には、サギソウやミミカキグサ、モウセンゴケといった湿地性植物が自生し、7月には日本最小のトンボとして知られるハッチョウトンボが姿を見せます。湿原を歩ける木道も整備されており、自然を間近に観察できることから、写真愛好家や自然観察のファンに人気です。
春には雑木林がやわらかな萌黄色に染まり、夏には濃い緑が生い茂ります。秋には紅葉が鮮やかな彩りを添え、冬には落ち葉のじゅうたんとともに、ヤマガラやコゲラの姿が見られます。空を見上げるとオオタカやノスリが悠々と飛ぶ姿が見られ、都市のすぐそばとは思えない自然の豊かさを実感できます。
鶴田沼緑地は市街化区域内にあり、周囲を住宅地や商業施設が取り囲み、すぐ近くには宇都宮環状道路(宮環)が走っています。宮環から小道へ入ると急に視界が開け、駐車場、鶴田沼、そして環境学習施設「鶴田沼自然の家」が現れます。
公共交通機関の便は良くなく、最寄りのバス停までは徒歩20分ほどかかるため、訪れる際は車でのアクセスが便利です。
鶴田沼は江戸時代の寛文年間(1661〜1673年頃)に農業用のため池として築造されました。導水が難しい水田へ水を供給するため、丘陵地形を巧みに利用したとされています。
昭和初期には突き漁やスケートが行われるなど、地域の人々にとって身近な娯楽の場でもありました。しかし都市化の進展とともに利用者が減少し、1970年代には貸しボート屋も姿を消しました。その後は荒廃が進んだものの、1993年に市と市民団体が保全に乗り出し、自然環境は徐々に回復していきました。
市と市民団体「鶴田沼の自然を育てる会」は、1950年頃の生態系の復元を目標に保全活動を行っています。活動内容は、沼の掻い掘り、ヨシの刈り取り、外来種の除去、コナラやクヌギの苗作りなど多岐にわたり、毎月第1・第3日曜日にボランティアが集まり作業が行われています。
これらの取り組みは高く評価され、同会は栃木県知事賞や下野ふるさと大賞奨励賞などを受賞しています。現在では、自然観察や学校の環境教育の場としても重要な役割を担っています。
鶴田沼緑地では、昆虫816種、鳥類85種、哺乳類8種など、きわめて多様な生物が確認されています。ギンブナやメダカ、ニホンアカガエル、オオムラサキやカブトムシなど、子どもから大人まで楽しめる自然観察スポットとして人気があります。
鶴田沼を象徴する生き物のひとつがハッチョウトンボです。体長2cmほどの日本最小のトンボで、湿原の保全状況を示す指標生物でもあります。夏に訪れると、赤く輝くオスの姿を見ることができ、多くの観察者がその可憐さに魅了されています。