加蘇山神社は、栃木県鹿沼市上久我に鎮座する歴史ある神社で、古来より山岳信仰の中心として多くの人々に崇敬されてきました。 標高879メートルの石裂山(おざくさん)の麓に位置し、神護景雲元年(767年)に勝道上人が開山したと伝えられています。 五穀豊穣・家内安全・火難消除・武勇の神として信仰を集め、長い歴史を通じて人々の生活と深く結びついてきた古社です。
社伝によれば、加蘇山神社は神護景雲元年(767年)に、日光開山で知られる勝道上人によって開かれたと伝えられています。石裂山は古くより「石裂大権現」あるいは「尾鑿山(おざくさん)」とも呼ばれ、神仏習合の時代には修験道の修行の場としても栄えました。
『日本三代実録』の元慶2年(878年)9月16日の条には、「下野国賀蘇山神」に従五位下の神階が授けられたとの記録があり、加蘇山神社と深い関係を持つ国史見在社であるとされています。この記録が鹿沼市上久我の加蘇山神社か、旧粟野町の賀蘇山神社を指すかについては諸説ありますが、いずれにしても古代から朝廷に認められた格式ある信仰であったことがうかがえます。
永承年間(1046〜1053年)には、源頼義・義家父子が奥州征伐の際、この地に参籠して戦勝を祈願したと伝えられています。祈願成就の後、再び社を訪れて鎧や太刀を奉納したとされ、武神としての信仰が厚かったことが分かります。
また、戦国時代には皆川広照が篤く信仰し、太刀や神馬などを寄進したと伝えられています。一方、永禄年間には久我常真がこの地を支配し、社領を横領した末に滅亡し、その兵火によって神宝や古文書の多くが失われたとされています。神職家であった湯沢氏五家も被害を受けましたが、その後、江戸時代に入り徐々に社運は回復していきました。
明治維新後には「石裂加蘇山神社」として再編され、明治10年に郷社、大正4年には県社に列格されるなど、近代社格制度の中でも高い位置付けを得ています。
加蘇山神社には、次の三柱の神々が祀られています。
磐裂命(いわさくのみこと)
根裂命(ねさくのみこと)
武甕槌男命(たけみかづちのおのみこと)
これらの神々は、大地を切り開く力や武勇を象徴する神とされ、古来より五穀豊穣、家内安全、火難消除、武運長久の御神徳があるとして、多くの人々から信仰を集めてきました。
境内はおよそ64万坪におよび、自然豊かな広大な敷地を有しています。昭和30年には前日光自然公園に指定され、原生林に近い自然環境が大切に守られています。
境内には樹齢500〜800年とされる杉の巨木が林立し、そのうち3本は鹿沼市の天然記念物に指定されています。杉木立の中をまっすぐに伸びる石段を登ると荘厳な社殿が見えてきます。
中でも特に知られているのが、栃木県指定天然記念物である「千本桂」です。 複数の幹が重なり合って成長した姿が「千本」に見えることからその名がつき、樹齢は約1000年と伝わる神木です。訪れる人々に神秘的な印象を与え、縁結びのご利益があるとも言われています。
加蘇山神社を起点として、石裂山から月山を巡り再び神社に戻る周回登山コースが整備されており、信仰登山と自然散策を同時に楽しむことができます。社務所の裏手からほどなく進むと下ノ宮があり、そこから中ノ宮、奥ノ宮へと至る参道が続きます。
途中には、県指定天然記念物の千本桂や、「行者返しの岩」と呼ばれる難所もあり、標高は高くないものの本格的な登山を体験できます。石裂山は映画やドラマのロケ地としても知られていますが、鎖場などの険しい箇所も多いため、十分な装備と注意が必要です。
加蘇山神社は、石裂山を中心とした登山・巡拝道の出発点としても人気があります。社務所裏から10分ほど歩くと下ノ宮があり、そこから登山道に入ると千本桂や中ノ宮、さらに険しい「行者返しの岩」を越えた先には奥ノ宮が鎮座しています。 石裂山は標高が高くないものの険しい箇所も多く、大河ドラマ『義経』や映画などの撮影地にも選ばれた自然豊かな山です。
石裂山は古くから「大日の山」とも称され、弘仁年間には空海が登山し、天照大神を合わせ祀ったという伝承も残されています。山頂の月山神社は天慶8年(945年)の建立とされ、山岳信仰と神道が融合した独特の信仰文化を今に伝えています。
最寄り駅はJR日光線・鹿沼駅です。駅から「上久我石裂」行きのバスが運行されていますが、本数は1日2本程度と少ないため、事前の確認をおすすめします。所要時間は約50分です。
東北自動車道の鹿沼インターチェンジからおよそ40分。国道121号、県道14号・240号を経由してアクセスできます。駐車場も整備されており、マイカーでの参拝が便利です。
加蘇山神社は、石裂山の雄大な自然と、千年以上にわたる信仰の歴史が息づく神社です。武将たちの祈り、修験者の修行、そして現代に生きる人々の願いを受け止めてきたこの地は、観光と信仰、そして自然体験を同時に味わえる貴重な存在といえるでしょう。