塩原温泉天皇の間記念公園は、栃木県那須塩原市塩原に位置し、かつて存在した旧塩原御用邸の建物のうち、最後まで現地に残されていた「天皇の間(新御座所)」を移築保存した歴史公園です。明治・大正・昭和の三代にわたり、多くの皇族方が避暑地として利用された由緒ある建物を、昭和56年(1981年)に原型のまま現在地へ移築し、広く一般に公開しています。
木立に囲まれた静かな園内には、皇室ゆかりの建築様式を今に伝える御座所が佇み、往時の面影を色濃く残しています。塩原温泉郷の豊かな自然と調和しながら、日本近代史の一端を物語る貴重な文化財として、多くの来訪者を迎えています。
塩原御用邸の歴史は、明治35年(1902年)に当時の嘉仁皇太子殿下(のちの大正天皇)が初めて塩原を訪れたことに始まります。那須連山の豊かな自然、美しい渓谷、そして良質な温泉に深く心を打たれたことがきっかけとなりました。
当時、福渡の地に別荘を構えていた那須野が原開拓の祖・三島通庸県令の嫡男、三島弥太郎がその別荘を献上したことにより、塩原御用邸が誕生しました。以後、明治から昭和にかけて、大正天皇、昭和天皇、高松宮殿下、三笠宮殿下をはじめとする多くの皇族方が避暑地として訪れ、静養の時を過ごされました。
また、戦時中には疎開の御殿としても利用され、日本の激動の時代を静かに見守ってきた歴史的建造物でもあります。
塩原御用邸が廃用となった後、敷地は厚生労働省へ移管され、国立塩原視力障害センターとして利用されました。しかし施設拡充に伴い、旧御用邸の建物は次第に取り壊され、最後に残った「天皇の間」も1981年3月に解体が決定しました。
これに対し、地域住民から保存を求める強い声が上がり、旧塩原町が文化振興の一環として払い下げを申請。栃木県の補助を受け、約500メートル離れた町有地へ解体移築されることとなりました。移築事業費は約2千万円。柱一本、天井板や屋根板一枚ごとに番号を付け、文化財専門業者の手により丁寧に再建されました。
その結果、昭和56年9月29日、「旧塩原御用邸新御座所」として栃木県有形文化財に指定され、今日に至るまで大切に保存・公開されています。
建物は明治38年(1905年)築の木造平屋建入母屋造りで、開口十間、奥行八間、二重回廊を巡らせた田の字型の夏型御座所です。東京の宮内省で仮組みした後、分割して塩原へ輸送・再建されました。当時の道路事情を考慮した工夫がうかがえます。
延床面積は約251.6平方メートル。12畳の部屋が3室、15畳の部屋が1室設けられ、格式ある書院造の趣を感じさせる落ち着いた空間が広がります。簡素でありながら気品に満ちた意匠は、皇室建築ならではの美意識を体現しています。
敷地面積は約2,067平方メートル。周囲には四季折々の草花が彩る日本庭園が整備され、春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、冬の静寂と、季節ごとに異なる表情を楽しむことができます。木立の中に佇む御座所は、まさに「皇室の避暑地」としての面影を今に伝えています。
園内には、三笠宮崇仁親王が幼少期に旧塩原御用邸で詠まれた和歌を刻んだ歌碑が建立されています。三笠宮殿下の卒寿を記念して2006年に地元住民の手によって建てられ、除幕式にはご本人も出席されました。
この歌碑は、塩原が皇室にとっても特別な思い出の地であったことを物語る象徴的な存在です。
所在地:栃木県那須塩原市塩原1266番地113
入場:有料
営業時間:午前9時~午後5時(冬季は午後4時30分まで)
定休日:毎週水曜日(夏休み期間中は無休)
駐車場:数台分あり
館内では建物内部の見学が可能で、当時の様子を偲ばせる展示も行われています。静かな環境の中で、歴史と建築美をじっくり味わうことができます。
JR利用の場合
西那須野駅または那須塩原駅西口よりJRバス「塩原温泉バスターミナル行き」に乗車し、「塩原福渡」バス停下車、徒歩約6分。
上三依方面から
上三依塩原温泉口駅より那須塩原市営バス塩原・上三依線に乗車し、「天皇の間記念公園前」バス停下車すぐ。
天皇の間記念公園は、塩原温泉郷の中心部にも近く、渓谷散策や温泉巡りと組み合わせて訪れるのに最適な立地です。周辺には箒川渓谷や吊橋、足湯など自然と歴史を楽しめるスポットが点在しています。
歴史的建築を見学した後は、温泉でゆったりと体を癒やし、塩原ならではの山の幸を味わう旅もおすすめです。
天皇の間記念公園は、単なる観光施設ではなく、日本近代史と皇室文化を伝える貴重な文化遺産です。木立に囲まれた静謐な空間に足を踏み入れると、時の流れが緩やかに感じられます。
塩原温泉の自然美とともに、歴史の重みと格式ある建築の美しさを体感できるこの場所は、落ち着いた大人の旅にもふさわしい名所といえるでしょう。