栃木県那須塩原市、箒川(ほうきがわ)の渓谷沿いに位置する回顧の吊橋(みかえりのつりばし)は、塩原温泉郷を代表する名勝のひとつです。その名のとおり、思わず振り返ってもう一度眺めたくなるほどの美しさを誇り、四季折々に異なる表情を見せる渓谷美が多くの観光客を魅了しています。
回顧の吊橋は、昭和62年(1987年)に完成した全長100メートル・高さ約30メートル・幅1メートルの吊橋です。箒川の深い渓谷に架かり、塩原エリアに数多くある吊橋の中でも、その高さとスケールは屈指といわれています。
橋の上からは、切り立った岩肌と清流が織りなす壮大な景観を一望できます。周囲に売店などの施設がないため、辺りはとても静かで、自然の息づかいを間近に感じられるのも魅力です。風に揺れる吊橋を渡る体験はスリルと開放感に満ち、渓谷の奥深さを実感させてくれます。
「みかえり」という名称は、旅人がこの景色を後にする際、あまりの美しさに思わず振り返ったことに由来すると伝えられています。その名のとおり、橋の中央で立ち止まり、往復で異なる景色を楽しむのもおすすめです。
吊橋を渡ってわずかに歩くと、観瀑台(展望台)に到着します。そこから望む回顧の滝は、約55メートルの落差を誇る塩原十名瀑のひとつです。岩肌を滑り落ちる白い水流は、水晶のすだれを垂らしたかのように美しく、訪れる人の心を打ちます。
明治の文豪・尾崎紅葉の小説『金色夜叉』にもこの地が登場し、「回顧橋は三十余丈の飛瀑を踏みて、山中の景は始めて奇なり」と記されました。古くから多くの文人墨客に愛されてきた景勝地であることがうかがえます。
回顧の吊橋と滝は、全長約12キロメートルにわたる塩原渓谷遊歩道の一部を構成しています。その中でも「回顧コース」は約3.3キロメートル、所要時間約120分の中級者向けコースです。急な登り下りが多く、健脚向けではありますが、その分、変化に富んだ自然景観を満喫できます。
猿岩駐車場側から歩き始めると、まず出会うのが留春(りゅうしゅん)の滝と留春の吊橋です。落差約15メートルの穏やかな滝で、冬から早春にかけては氷結することもあります。ひっそりと流れる水音は、その名のとおり春を留めるかのような趣を感じさせます。
コース中盤では、アカヤシオやシロヤシオなどのツツジが群生する尾根に出ます。4月中旬には一面が鮮やかな花に包まれ、展望台からは大網地区の景色を見下ろすことができます。ここは標高が最も高く、休憩にも最適なポイントです。
その後はカラマツ林やモミ、アスナロの原生林を抜けながら下っていきます。途中、塩原ダムや回顧の滝を遠望できる場所もあり、変化に富んだ景色が続きます。そしてコースの締めくくりとして現れるのが回顧の吊橋です。渓谷遊歩道のラストを飾るにふさわしい壮大な眺めが待っています。
回顧の吊橋・回顧の滝周辺は、年間を通じてさまざまな表情を見せてくれます。
新緑が芽吹き、ツツジが山肌を彩ります。爽やかな空気の中でのハイキングは格別です。
深い緑に包まれ、滝のしぶきと清流の音が涼をもたらします。森林浴にも最適な季節です。
10月下旬から11月中旬にかけては紅葉の見頃を迎えます。赤や黄色に染まった渓谷と吊橋のコントラストは見事で、塩原温泉郷屈指の紅葉名所として知られています。
雪化粧した渓谷は静寂に包まれ、幻想的な景色が広がります。凍結する滝の姿もまた、自然の厳しさと美しさを感じさせます。
JR那須塩原駅西口からJRバスで約30分、「もみじ谷大吊橋」下車徒歩約5分。またはJR宇都宮線西那須野駅から約30分です。
東北自動車道西那須野塩原ICから約15分。蟇石(がまいし)園地駐車場を利用すると便利です。
回顧の吊橋と回顧の滝は、塩原渓谷の自然美を象徴する名所です。スリルある吊橋体験と、迫力ある名瀑の眺め、そして森に包まれた遊歩道散策は、日常を離れた特別な時間を提供してくれます。体力に自信のない方でも、蟇石園地から吊橋を渡り観瀑台を訪れるだけで十分に渓谷の魅力を味わえます。四季の彩りに包まれる絶景を、ぜひ現地でご体感ください。