那須塩原市塩原に広がる豊かな自然の中で、気軽に散策を楽しめるコースが「天皇の間・七ツ岩コース」です。塩原温泉ビジターセンターを拠点とし、前山国有林の森と箒川(ほうきがわ)の渓谷美、そして皇室ゆかりの歴史的建造物を一度に巡ることができる、魅力あふれる周回コースです。全長約1.6km、所要時間は約50分と、無理なく歩ける距離でありながら、塩原の自然と歴史を凝縮して体感できる贅沢な散策路となっています。
コースの入り口は、塩原渓谷遊歩道「やしおコース」と同じルートから始まります。前山の遊歩道分岐T字路を左折し、モミやミズナラ、コナラなどの原生林が点在する森の中を進みます。木々に囲まれた道は四季折々に表情を変え、春は芽吹きの柔らかな緑、夏は深い木陰、秋は色鮮やかな紅葉、冬は澄んだ空気と静寂に包まれます。
約200メートルほど歩くと、「天皇の間記念公園」の前に出ます。さらに進むと、遊歩道の眼下に箒川の流れと、幕川に点在する野立岩をはじめとした奇岩群が見えてきます。やがて道は七ツ岩吊橋へと続き、橋を渡ることで再びビジターセンター方面へと戻る周回ルートとなっています。
天皇の間・七ツ岩コースは、全長約12kmにわたる「塩原渓谷遊歩道」の一部です。箒川沿いに整備されたこの遊歩道は、回顧(みかえり)の吊橋から源三窟まで続き、名所を巡る多彩なコースが用意されています。
急なアップダウンが続く健脚向けの「回顧コース」、比較的緩やかで歩きやすい「やしおコース」など、体力や時間に応じて選択できるのが特徴です。短い区間であれば約40分程度で歩くことができ、観光とハイキングを兼ねた散策に最適です。森林の香りに包まれながら渓谷のせせらぎを聞く時間は、都会では味わえない癒やしを与えてくれます。
箒川には、巨大な七つの岩が集まる「七ツ岩」と呼ばれる景勝地があります。長い年月をかけて自然が生み出した奇岩群は迫力があり、塩原渓谷を代表する風景のひとつです。その近くに架かるのが、全長87メートルの七ツ岩吊橋です。
吊橋は周囲の自然景観と調和するよう擬木塗装が施され、床板にも木材が使用されています。橋の上からは、四季を通して清らかな箒川の流れと奇岩群を一望できます。特に春、アカヤシオやヤマツツジが咲き誇る季節は格別で、淡い花色と渓谷の岩肌、清流のコントラストが美しい景観を生み出します。秋には紅葉が渓谷を鮮やかに彩り、訪れる人々の目を楽しませてくれます。
七ツ岩吊橋は七ツ岩バス停から塩原温泉ビジターセンターへ向かう近道でもあり、観光の玄関口としても親しまれています。
七ツ岩吊橋の駐車場付近には、無料で利用できる「七ツ岩足湯」が設けられています。自然の温泉をそのまま使用しているため、日によって湯温が異なることがありますが、それも自然の恵みならではの魅力です。
足湯に浸かりながら、春はツツジ、秋は紅葉を眺める時間は、散策の疲れを優しく癒やしてくれます。誰でも気軽に立ち寄ることができ、旅の合間にほっと一息つける場所として人気があります。
コースの見どころのひとつが「天皇の間記念公園」です。ここには、かつて塩原福渡の地にあった「塩原御用邸」の一部である「天皇の間(新御座所)」が、昭和56年に原形のまま移築保存されています。
塩原御用邸は、1902(明治35)年に嘉仁皇太子殿下(後の大正天皇)が塩原を訪れ、その自然や気候、温泉を大変気に入られたことをきっかけに誕生しました。那須野が原開拓の祖として知られる三島通庸県令の嫡男・三島弥太郎が別荘を献上したことにより整備され、明治から昭和にかけて、大正天皇、昭和天皇をはじめ、高松宮殿下、三笠宮殿下など多くの皇族が避暑地として利用されました。戦時中には疎開の地としても使用された歴史があります。
現在、公園内には当時を偲ばせる調度品や資料が展示され、伝統的な日本庭園に囲まれた静かな空間が広がっています。木立の中にたたずむ建物は、往時の皇室別荘地としての風格を今に伝え、訪れる人に深い感慨を与えます。
天皇の間・七ツ岩コースは、豊かな原生林、清流箒川、迫力ある奇岩群、そして皇室ゆかりの歴史的建造物がひとつのルートに凝縮された散策コースです。距離は比較的短く、どなたでも無理なく歩くことができるため、塩原観光の入門コースとしてもおすすめです。
最寄りのバス停は「七ツ岩吊橋」。そこから塩原温泉ビジターセンターまでは徒歩約7分(約300m)です。公共交通機関を利用してもアクセスしやすく、観光と自然散策を兼ねた充実のひとときを過ごすことができます。
塩原の誇る大自然と歴史の面影を感じながら、ゆったりと歩く時間は、心身を解きほぐし、穏やかな余韻を残してくれることでしょう。四季それぞれに異なる魅力を見せるこのコースを、ぜひご自身の足で体験してみてください。