戦場ヶ原は、男体山と赤城山の神々が中禅寺湖を巡って争ったという神話に由来する場所です。昔は湖でしたが、今では広大な湿原として400ヘクタールもの広さを誇っています。この湿原には350種類もの植物が生息し、また多くの野鳥が生息することから、「国際的に重要な湿地」として認められ、ラムサール条約に登録されています。
湿原を囲むように自然研究路が整備されており、約2時間で歩けるハイキングコースもあります。男体山を背景にした展望ポイントからは、広大な湿原が一望でき、自然の美しさを感じることができます。一年中楽しむことができますが、特にワタスゲやホザキシモツケが見頃の6月中旬から8月上旬、草紅葉が美しい9月下旬から10月上旬がおすすめの時期です。
概要
日光国立公園内に広がる400ヘクタールの湿原です。この湿原は標高約1,390メートルから1,400メートルの平坦地に広がっており、東側は男体山、太郎山、山王帽子山、三岳、西側は小田代ヶ原、外山に囲まれています。湯川が地内を南北に流れています。
約2万年前の男体山の噴火により湯川が堰き止められ、古戦場ヶ原湖が形成されました。その後、土砂や火山の噴出物が積もり、植物が生育して泥炭化し、湿原ができました。湯川に平行するように戦場ヶ原自然研究路が整備され、木道が設けられています。
戦場ヶ原周辺には国道120号が通り、赤沼自然情報センターやレストハウス三本松茶屋が設置されています。竜頭の滝や湯滝もハイキングの拠点となっており、展望台からは美しい景色を楽しむことができます。
湿原を横切る国道120号を挟んで北側は草原化し、高地栽培や山上げ栽培の農地として利用されています。イチゴやカランコエ、シャコバサボテン、アッツザクラなどが栽培されています。
戦場ヶ原で行われる山上げ栽培は、育苗の際に温暖地で出芽し育てた苗を一時的に冷涼地で育てる方法です。これにより農業収穫を早めることができますが、高原の厳しい環境によるリスクもあるため、高度な農業技術が必要です。
山上げ栽培が成功し、クリスマスシーズンに日光いちごが市場に出回るようになったことから、栃木県は日本一のイチゴ生産県として知られています。現在は観賞用植物の山上げ栽培が盛んです。
歴史
「戦場ヶ原神戦譚」には、この湿原の名前の由来となる伝説が記されています。下野国(現在の栃木県)の男体山(二荒山)と上野国(主に群馬県)の赤城神(赤城山)が、大蛇と大ムカデに化けて戦った場所とされています。この争いは、中禅寺湖を巡る領地争いが原因で、男体山(二荒山)が勝利したとされています。
紀元前から古事記や日本書紀の執筆前に、毛野国は上野国と下野国に分かれており、この地域は有力な豪族のケヌの国の中心地でした。そのため、実際に戦乱があった可能性も指摘されています。地名の由来には、男体山と赤城山の間で争いがあったとする説や、「千畳が原」から来ているとする別の説もあります。
明治時代以降、戦場ヶ原の農地開拓が進められました。1934年には「日光国立公園」の一部に指定されましたが、当初は湿原の価値が充分に理解されていたわけではありませんでした。1940年代後半には森林の伐採が行われ、伐採に伴う土砂の流入が進みました。特に1949年のキティ台風では土砂の流入によって湿原が一時的に湖のようになるなど、湿原の縮小が進みました。さらに、国道の整備により1960年代から1970年代にかけて公園利用者の増加が見られ、湿原植生の壊れる状況も発生しました。
1960年代に湿原の乾燥化が問題視され、1970年代には湿原保全対策が始まりました。日光国立公園内での鹿の生息数が増加し始めたのは昭和60年代からで、鹿による湿原植生の破壊を防ぐために2001年から防鹿柵が設置されました。2005年には、戦場ヶ原の一部がラムサール条約登録湿地になりました。
戦場ヶ原自然研究路
戦場ヶ原自然研究路は、湯川沿いに南北に通る歩道で、環境省が管理しています。これは湯川歩道の一部であり、木道が整備されています。
この自然研究路は、戦場ヶ原の南側入口が赤沼地域の国道120号沿いにあり、北側入口は泉門池周辺に位置しています。途中、青木橋を渡る箇所があります。赤沼地域の入口からは竜頭の滝や小田代ヶ原、湯滝へと向かう分岐地点があります。この分岐を選び、赤沼川を渡って湯滝方面に進みます。北側の入口は戦場ヶ原内の泉門池周辺にあります。木道には戦場ヶ原を一望できる展望スポットやベンチが設置されています。
ルートは湯滝地域を除いてほぼ平坦で、奥日光の自然環境を近くで感じることができます。そのため、多くのハイキング愛好者が訪れるほか、関東地方の小学校の修学旅行コースとしても利用されています。
動植物
戦場ヶ原の植生は、環境省日本の重要湿地500によれば、主に「ヌマガヤ-イボミズゴケ群落」や「オオアゼスゲ群落」とされています。湿原の大部分はヌマガヤやオオアゼスゲ、ワタスゲなどが生育する中層湿原であり、湿原の中央にはヒメミズゴケが高層湿原の群落を形成しています。草原部にはイブキトラノオやノハナショウブ、カラマツソウなどの草本とともにズミやレンゲツツジなどの木本も見られます。湯川沿いの拠水林にはカラマツ、ミズナラ、ハルニレ、シラカンバなどの木本が豊かに茂っています。冬期には草原部の凍土が深く、そのため木本は根付きにくいです。
花は6月から8月にかけて咲き、クロミノウグイスカグラから始まり、ワタスゲ、ズミ、レンゲツツジ、イブキトラノオ、カラマツソウ、ノハナショウブ、ホザキシモツケなどの順番で開花します。
野鳥も豊富で、ズミ林にはキビタキやホオジロ、湿原部にはノビタキやホオアカ、拠水林にはキセキレイやカワガラス、森林部にはアカゲラ、シジュウカラ、ウグイスなどが観察されます。
また、ツキノワグマも頻繁に目撃されることがあります。
戦場ヶ原展望台
JR日光駅または東武日光駅より東武バス湯元温泉行き乗車約65分、「三本松」バス停下車徒歩1分