那珂川町馬頭広重美術館は、栃木県那須郡那珂川町に位置する町立美術館で、浮世絵師・歌川広重の芸術を中心に、日本近世から近代にかけての美術を幅広く紹介する文化施設です。2000年(平成12年)11月3日に開館し、町の歴史や文化を象徴する存在として、地域内外から多くの来館者を迎えています。
同館の最大の特色は、歌川広重の肉筆画・版画を中心とする質・量ともに充実した所蔵品にあります。広重の版画・肉筆画あわせて94点を所蔵し、そのうち肉筆画だけでも40点を超える点数を誇ります。これは全国の美術館の中でも有数の規模であり、特に「天童広重」と呼ばれる肉筆画を十数点所蔵していることは、専門家からも高く評価されています。
なかでも「江都八景」「富士十二景」といった広重の肉筆画は、重要文化財級と評されるほどの価値を持ち、広重芸術の真髄に直接触れることができる貴重な作品群です。
馬頭広重美術館の所蔵品の中核をなすのが、「青木コレクション」です。このコレクションは、栃木県さくら市出身の実業家・青木藤作氏(1870–1946)が、大正から昭和にかけて収集した美術品を基にしています。
青木藤作氏は、肥料商として事業を成功させる一方、歌川広重の肉筆画や版画、徳富蘇峰の書、小林清親の版画、川村清雄の油画など、近世・近代日本美術を幅広く蒐集しました。また、思想家・徳富蘇峰と生涯にわたる交流を持ち、文化人としても深い足跡を残しています。
1996年(平成8年)、阪神・淡路大震災で被災した青木家遺族から、これらの貴重なコレクションを一括して寄贈したいとの申し出がありました。これを受け、栃木県の支援のもとで町立美術館の設立が決定し、馬頭広重美術館が誕生しました。館名に「広重」を冠しているのも、青木氏がとりわけ広重を敬愛していたことに由来します。
館内では、歌川広重の肉筆画や歌川派の浮世絵版画をはじめ、小林清親を中心とした明治版画、川村清雄の油彩画など、幅広い作品が展示されています。浮世絵だけでなく、日本美術の近代化の歩みを感じられる構成となっており、美術史に詳しくない方でも楽しめる内容です。
また、年間およそ9回の企画展が開催され、浮世絵を軸にしながらも、工芸、書、美術資料など多様な切り口で展示が行われています。訪れるたびに新たな発見がある点も、この美術館の大きな魅力です。
美術館の建物は、世界的建築家であり、国立競技場の設計でも知られる隈研吾氏によるものです。地元産の八溝杉をふんだんに使用し、切り妻屋根を冠した平屋建ての建築は、周囲の里山風景と美しく調和しています。
この建築は高く評価され、林野庁長官賞、マロニエ建築賞、村野藤吾賞、BCS賞、日本建築学会作品選奨など、数々の建築賞を受賞しています。建物そのものが鑑賞対象となり、建築ファンにも人気のスポットとなっています。
馬頭広重美術館は、商店街と里山散策路に挟まれた公共性の高い場所に建てられており、美術館を核とした町づくりの象徴的存在です。周辺には蕎麦店や洋食店、さらには美術館併設のカフェ(不定休)もあり、鑑賞後の食事や休憩にも困りません。
芸術鑑賞とともに、那珂川町の穏やかな町並みや自然を楽しむことができ、観光客にとっても魅力的な散策エリアとなっています。
JR氏家駅から関東自動車バス「馬頭車庫行き」で約60分、「室町(旧馬頭役場前)」下車、徒歩約2~3分です。
JR烏山駅からは那珂川町コミュニティバス馬頭烏山線「那珂川町役場行き」で約40分、「室町」下車すぐ。
JR西那須野駅からも関東自動車バス「馬頭車庫行き」で約60分、「馬頭役場前」下車後、徒歩数分で到着します。
常磐自動車道那珂ICから約1時間、東北自動車道矢板ICまたは宇都宮ICから約50分です。JR宇都宮駅やJR那須塩原駅周辺でレンタカーを利用することもでき、県内外からのアクセスも良好です。
那珂川町馬頭広重美術館は、貴重な美術品、洗練された建築、そして里山の風景が一体となった、静かで豊かな時間を過ごせる美術館です。歌川広重の世界に浸りながら、那珂川町の文化と自然に触れるひとときを、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。